鳩の街通り商店街の歴史と現在|赤線跡に佇むレトロカフェ散歩の極意
東京スカイツリーの足元に広がる下町・墨田区向島エリア。近代的なタワーの威容とは対照的に、一歩路地へ足を踏み入れると、まるで昭和中期で時が止まったかのような錯覚を覚える一角が存在します。それが、戦前から戦後にかけての濃厚な記憶を宿す「鳩の街通り商店街」です。
かつて作家・吉行淳之介が描いた「赤線地帯」としての哀愁漂う歴史を持ちながら、現在は古い建物を生かした古民家カフェや個性的なアトリエが集まる散策スポットとして静かな熱気を見せています。本稿では、街が辿った劇的な歴史の背景から、現存する貴重なカフェー建築、話題のカフェ巡り、散策時のポイントまでを徹底的に掘り下げます。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 歴史の変遷:戦前の私娼窟「玉の井」から移転し発展した旧赤線地帯であり、作家・吉行淳之介の出世作『原色の街』の舞台としても知られる。
- 見どころと建築:特有の円柱やモザイクタイルが残る「カフェー建築」と、昭和初期の長屋文化が色濃く現存する。
- 現在の魅力:名店「カフェこぐま」をはじめとするリノベーション店舗が点在し、下町情緒と若いクリエイティビティが融合した散策路へ進化。
【昭和の面影】墨田区向島に眠る「鳩の街通り商店街」とは?
墨田区向島5丁目から東向島1丁目にかけて伸びる鳩の街通り商店街は、全長およそ300メートル強、道幅わずか3.3メートルほどの極めて狭い通りです。この狭小な道幅こそが、大規模な都市開発や戦火を奇跡的に免れた証拠でもあります。
頭上を電線が交差し、木造の看板建築やトタン壁の長屋が連なる景色は、都内でも屈指のレトロ空間として知られています。下町の日常を支える青果店や惣菜店が並ぶ一方で、近年は空き店舗を活用した若手店主によるショップも増加しており、新旧が違和感なく溶け合う独特のコミュニティを形成しています。
【歴史の真相】玉の井から移転した「赤線地帯」と吉行淳之介の文学
鳩の街通り商店街の歴史を語るうえで避けて通れないのが、戦後の一時期に存在した「赤線(旧特殊飲食店街)」としての過去です。もともとこの地は、1945年3月の東京大空襲で壊滅的な被害を受けた銘酒屋街「玉の井」の業者たちが移り住んだことから始まります。
戦後復興期、占領軍の取り締まりや警視庁の指導により、一帯は「鳩の街」と名付けられ、約100軒もの特殊飲食店が密集する公認の歓楽街へと姿を変えました。この時代の街の空気感を克明に捉えたのが、芥川賞作家・吉行淳之介の小説『原色の街』です。吉行自身が実際にこの街に通い詰め、哀歓に満ちた女性たちの生き様や路地の猥雑さを描いたことで、文壇でもその名が広く知られるようになりました。
やがて1958年(昭和33年)の売春防止法施行によって赤線は完全に廃止。店主たちは一般の飲食店や日用品店へと看板を掛け替え、地域の生活を支える商店街としての新たな歩みをスタートさせました。
【建築鑑賞】円柱やモザイクタイルが語る「レトロ建築」の痕跡
商店街とその周辺の路地を観察すると、一般的な商店街とは異なる特異な意匠を持つ建物が目に留まります。これらは通称「カフェー建築」と呼ばれ、赤線時代に客の目を引くために趣向を凝らして建てられたものです。
建物の特徴として挙げられるのが、入口脇に据えられた円柱やアールを描く壁面、そして鮮やかなモザイクタイル(豆タイル)の装飾です。外観を西洋風に見せかけるためのモルタル造りや、淡いピンクや水色に彩られたタイルの貼り分けに、当時の面影が色濃く残されています。現在も一般住宅や店舗として使われている物件が多く、過度な観光地化がされていないからこそ、本物の昭和遺構としての価値を保っています。
【現在とリノベーション】古民家カフェ「こぐま」など注目の新旧名店
現在、鳩の街通り商店街は昭和レトロな風情を愛する人々が集うカルチャースポットとして再評価されています。その牽引役となったのが、昭和2年築の旧薬局をリノベーションした「カフェこぐま」です。
店内には当時の薬棚やガラス瓶がそのまま保存され、ノスタルジックな空間で名物の「焼きカレー」やりんご水を楽しむことができます。その他にも、焼き菓子店や手作り雑貨の工房、古本を扱うスペースなどが点在。派手な商業化を避け、街の歴史に敬意を払いながら営業を続ける個性派店舗の存在が、商店街に新しい活気をもたらしています。
【散策マップ&食べ歩き】地元グルメを味わう下町歩きのモデルコース
鳩の街通り商店街を訪れる際は、商店街のコミュニティスペースなどで配布されている「散策マップ」を手に入れるのがおすすめです。路地の入り組んだ構造や、各建物の見どころが分かりやすくまとめられています。
散策の醍醐味といえば、気取らない下町グルメの食べ歩きです。昔ながらのパン屋で買うコッペパン、精肉店の揚げたてコロッケ、老舗和菓子店の季節の団子など、どこか懐かしい味わいに出会えます。通りを抜けて隅田川沿いへ出れば、墨堤の桜並木や向島の料亭街へと続く散歩ルートも組み立てやすく、半日かけてじっくりと下町情緒を堪能できます。
【アクセスガイド】東武スカイツリーライン「曳舟駅」からの徒歩ルート
鳩の街通り商店街へのアクセスは、東武スカイツリーライン(伊勢崎線)の「曳舟駅」西口から徒歩約8分、あるいは京成押上線の「京成曳舟駅」から徒歩約10分と非常に良好です。
東京メトロ半蔵門線や都営浅草線が乗り入れる「押上駅(スカイツリー前)」からも徒歩15分ほどでアクセスできるため、現代的な観光スポットと昭和の路地裏を対比させながら歩くルートも人気を集めています。
【鳩の街通り商店街】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:赤線時代のカフェー建築は自由に見学や撮影ができますか?
A1:外観を通りから眺めることは可能ですが、建物の多くは現在、一般の住民が暮らす私有地です。敷地内への無断立ち入りや、住人のプライバシーを侵害するような窓や表札の撮影は厳禁となっています。マナーを守った見学を心がけてください。
Q2:散策やカフェ巡りに適した曜日や時間帯はありますか?
A2:商店街の個人店や古民家カフェは水曜日や木曜日が定休日となっているケースが目立ちます。散策を満喫するなら、各店舗がオープンする金曜日から日曜日、時間帯は11時〜16時頃に訪れるのが最も適しています。
Q3:「鳩の街」という名前の由来は何ですか?
A3:諸説ありますが、戦後の進駐軍(GHQ)がこのエリアを地図上で特定する際に付けたコードネームに由来するという説や、平和の象徴として名付けられたという説が有力です。正式な商店街名として定着し、現在に至ります。
まとめ:下町の歴史を受け継ぎ進化を続ける鳩の街通り商店街
歴史の荒波と都市の再開発をすり抜け、奇跡的に昭和の原風景を残し続ける鳩の街通り商店街。そこには、赤線時代の哀愁や吉行文学の世界観、そして下町の人情が今も息づいています。
古い建物を大切に使い続けるリノベーション店舗の広がりにより、歴史を過去のものとして閉じ込めるのではなく、現代のライフスタイルに合わせて継承していく姿勢がこの街の大きな魅力です。東京スカイツリーのすぐ足元に残る、静かで深い下町の路地裏へ、時の旅に出かけてみてはいかがでしょうか。 (出典: 鳩 の 街 通り 商店 街(Yahoo!ニュース))