丹下健三が刻んだ光と影。東京カテドラル聖マリア大聖堂の秘密を追う
st mary's cathedral tokyoの重厚な鉄骨扉を押し開けた瞬間、誰もが一瞬、息を呑む。東京都文京区関口の静けさの中に突如現れるその空間は、カトリック東京大司教区の司教座聖堂であり、世界的な巨匠・丹下健三がその持てる情熱のすべてを注ぎ込んだ最高峰の宗教建築だ。頭上に広がる打放しコンクリートの壁面が、無機質でありながらどこか生き物のような温もりを帯びて迫ってくる。
外壁を覆うメタリックなステンレススチールの質感は、刻一刻と表情を変える東京の空を繊細に反射する。国内外の建築・デザイン業界で常に議論の的となり、近年は世界中の観光・旅行業界からも熱烈な視線を浴びるst mary's cathedral tokyoだが、この大聖堂が放つ本当の「凄み」は、内部に足を踏み入れて初めて身体全体に押し寄せてくるのだ。
巨匠・丹下健三が挑んだモダニズム建築の到達点:HPシェル構造が生み出す大空間
1945年の空襲で焼失した旧木造大聖堂の再建に向けて、1962年に指名コンペが開催された。前川國男や谷口吉郎といった錚々たる建築家が顔を揃える中、勝者に選ばれたのが丹下健三だった。丹下があえて選んだ手法は、当時の先端技術であった「HPシェル構造(双曲抛物面シェル構造)」の極限的な応用だ。
8枚の巨大な薄肉コンクリート壁を垂直近くまで立ち上げ、頂部で隙間を空けて結合させる。柱を一本も立てずに、高さ約40メートルにおよぶ荘厳な内部大空間を成立させた。半世紀以上が経過した現在も、モダニズム建築の不滅の金字塔として君臨し続けている。
光と影の彫刻:コンクリート壁面を貫く巨大な「光の十字架」
大聖堂の内部には、一般的な教会に見られるような側面の窓がほとんど存在しない。コンクリートの荒々しい質感が暗がりの中に沈み込んでいる。しかし、上を見上げると視線は否応なしに一筋の光へと導かれる。
8枚のHPシェル構造が描く隙間にはガラスがはめ込まれており、上空から降り注ぐ太陽光が天井で交差する。空から巨大な「光の十字架」が舞い降りてくるかのような視覚体験だ。晴天の正午、斜光が差し込む夕刻、雨の日の微光。天候や時間帯によって刻々と形を変える光と影の彫刻は、訪れる者の心を深く揺さぶる。
日本最大級のパイプオルガンに隠された響きと知られざる構造の秘密
大聖堂の後方上部に鎮座するパイプオルガンは、イタリアのマチオーニ社によって制作されたもので、宗教施設に設置されたパイプオルガンとしては日本最大級の規模を誇る。約3,100本ものパイプが並ぶその姿は圧巻だが、本当の秘密はその「音響メカニズム」にある。
曲面を描く薄いコンクリート壁面は、過度な反響音を打ち消しつつ、残響時間を最長で約7秒間という奇跡的な長さに伸ばす。楽器として計算し尽くされた空間構造が、パイプオルガンの重低音を巨大な器全体で包み込み、まるで建物自体が響きを上げる巨大な共鳴箱へと変貌するのだ。オルガン演奏会が開催される日には、音楽ファンや建築家がその音響空間を体感するために押し寄せる。
国立代々木競技場との意外な共通点?半世紀を超える耐久性とデザインの奇跡
東京カテドラル聖マリア大聖堂が竣工した1964年は、丹下健三にとって歴史的な年だった。同年に開催された東京オリンピックの主会場「国立代々木競技場」もまた、彼の設計によって誕生している。
国立代々木競技場がダイナミックな吊り構造によって前代未聞の無柱空間を作り上げたのに対し、大聖堂はHPシェル構造という別のアプローチで巨大空間を実現した。構造計算の難易度が高かった時代に、構造家・坪井善勝と組み、2つの全く異なる歴史的建造物を同時に完成させた丹下の創造力には驚嘆するほかない。
Googleマップやトリップアドバイザーでも高評価!現地訪問で知っておくべき鑑賞のマナー
現在、Googleマップやトリップアドバイザーなどのレビューサイトでは、「東京で最も息を呑む場所」「SF映画のセットのような神聖さ」といった絶賛の口コミが世界中から寄せられている。観光名所としての注目度は年々高まるばかりだ。
だが忘れてはならないのは、ここが観光地である前にカトリック信徒たちの祈りの場であるという事実だ。ミサが執り行われている時間帯の立ち入りや、内部での無許可撮影、大きな話し声は厳禁とされている。写真撮影の可否については事前に現地での指示に従い、静寂を守って空間そのものと対話することが求められる。
東京都文京区関口へのアクセスと静寂を享受するおすすめの時間帯
大聖堂へのアクセスは、東京メトロ有楽町線「江戸川橋駅」から徒歩約15分、あるいはJR山手線「目白駅」から都営バスに乗車し「ホテル椿山荘東京前」で下車するのが最もスムーズだ。緑豊かな文京区関口の街並みを抜けると、突如として銀色の異空間が現れる。
静けさの中で建物の真価を味わいたいなら、平日の午後の時間帯が狙い目だ。西日が差し込み、大聖堂内部のコンクリート壁面に長い影が伸びていく光景は、都会の喧騒を完全に忘れさせてくれる。丹下健三が生み出した光と陰影の小宇宙へ、静かに足を踏み入れてみてはいかがだろうか。 (出典: st marys cathedral tokyo(Yahoo!ニュース))